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2005.03.27 Sun  「アレハ・・・イヤ彼ハ・・・我々ト同ジ人間ナノデス」

 どうやらここの3/21のライブレポで僕がジャミラについて一生懸命説明したことになってますが、「ジャミラを倒すときのウルトラマンの手からホースが見える」なんて笑い話をひとつ披露したくらいじゃ一生懸命説明したことにならねえよ、と憤慨してたのですが、それについて抗議するくらいならばいっそのこと本当にジャミラについて心ゆくまで一生懸命に語ってやろうと思います。あのライブからこのサイトをこっそり見てるそこの君、そうそう君だ。しっかり聞きなさい。

 ジャミラは初代ウルトラマン第23話「故郷は地球」に登場した怪獣です。ただし、その正体は地球人。
 このジャミラのエピソードはウルトラマンシリーズ史上屈指の名エピソードです。

 簡単にあらすじを書くと。宇宙飛行士ジャミラは実験のために宇宙船に乗り込むが、その実験は失敗し、高温で水がないという過酷な環境の惑星に不時着する。しかし地球(というより某国政府)は実験の失敗を隠すためにジャミラを見捨てる。救援を待ち過酷な環境下で生き延びたジャミラは全身が干からびたミイラになり何故か強大化、そして100万度の炎を吐けるという特技を身に付けて自分を見捨てた地球に復讐のため襲来。
 そして科学特捜隊に下された命令はその実験の失敗を隠すために「ジャミラの正体を隠し、宇宙人として処理せよ」という命令だった。科学特捜隊の中でも「ジャミラを倒したくない」と揉める一幕まであるが、罪のない人々の村まで襲撃するジャミラを科学特捜隊は葛藤の中で倒すのだった、というお話。

 要するに、国家の体裁と科学の発展の名の下、人間一人を犠牲にしたお話、ということです。ただ、この描写がことごとくエグイ。
 まずはジャミラの容姿。これです。皮膚は完全に干からび、口は赤く裂け、人間とはほど遠い醜悪な容姿。また設定上どうしても人間の形に近いのですが、より怪獣らしさを出すために肩の部分に詰め物があります。
 このシルエットがインパクトある怪獣として有名だと思うのですが、僕個人はジャミラの目に非常にインパクトを感じます。怪獣の目なんて上向きで尖ってて爬虫類的なイメージがあるんですけど、ジャミラの目は白目と黒目が逆転している。つまり、人間っぽく人間でない微妙な雰囲気を醸しだしてます。この目についてはアップのシーンがあるんですが、そのシーンではジャミラ自身がハッと気付いたような、悲しそうな表情を見せるのが印象的です(怪獣側の心理描写のために顔をアップするなんて特撮怪獣モノでは稀有な場面だ)。
 極めつけはジャミラが死ぬシーン。通常の怪獣だったらスペシウム光線で怪獣を爆死させるとか、如何にも「退治」という具合なんですけど、このお話に限ってはそんな生やさしいものではありません。ウルトラマンはジャミラに弱点である水を浴びせて「殺す」んですけど、ここでジャミラはすごくもがき苦しんで死ぬという描写です。しかもジャミラが死ぬときの声が赤ん坊のような泣き声になる。これはそうとうにきつい描写です。

 こんな具合に、様々なテーマが織り込まれ、それを巧みに表現したのがこのジャミラのエピソードです。ジャミラは自分を見捨てた人類(地球)に復讐するために地球に帰ってきた。彼が劇中で妨害しようとした会議が「国際平和会議」という名前であったのは、製作者側の痛烈な皮肉だと受け止めることができます。
 このエピソードの主役は、もうジャミラ以外の何者でもない。ウルトラマンさえ脇役だ。いや、常に人間の味方としての存在だったウルトラマンが、この話では感情がないただの兵器のようにジャミラを殺す、という役でしかない。これはむしろ人間のエゴ(もっと詳しく書くなら、国家という人間の集団のエゴ)を象徴する存在ですらある。国家が戦争によって人を殺す行為というものは、それ相応の大義名分を振りかざし、感情を挟まずに実行する。つまりはきっとこんな感じじゃないのかとさえ思う。
 それに対し、「国家の体裁」「科学の発展」という名目の犠牲になったジャミラは復讐を誓い、「お前は人間の心をなくしたのか」という隊員の叫びに怯み(ここで目のアップが出てくる)、最後はもがいて一人寂しく死ぬ。先に「人間とはほど遠い醜悪な容姿」と書きましたが、しかしジャミラの描写は非常に人間的だ。

 ウルトラマンは空想科学特撮シリーズと銘打たれた作品です。ただし、そこはゴジラに「反核兵器」というメッセージを込めた円谷プロらしく、様々なメッセージを込めてくる。そしてジャミラの話に込められたメッセージは相当なボリュームです。エピソードタイトルは「故郷は地球」。地球で死ねたジャミラの死は、それでもあまりに孤独で残酷じゃなかったのか。超名作です。心ゆくまで語ってやりました。




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