update2003.1月くらい
加筆訂正update2003.12.21

CLASH / LONDON CALLING

 70年代の後半以降にロンドンを中心に活動した、ジョー・ストラマー率いるパンクバンド。その3rdアルバム。19曲、いわゆるパンクという音以外の曲も多く、実に多彩な19曲です。

 このアルバムのテーマは、実はジャケットにあります。このアルバムのジャケットはこちら。文字の配置と色、そしてギターを叩き壊す中央の人物をチェックした上で。今度はこのエルヴィス・プレスリーのジャケットであるこちらをご覧ください。
 1回見れば解ると思います。エルヴィスのアルバムの上機嫌にギターを掻き鳴らす人物に対し、同じ構図でギターを叩き壊すクラッシュ。「ロックの世界を俺達がぶっ壊してやる!」という姿勢。と同時に、18曲目である「レヴォリューション・ロック」へのフリであると僕は解釈しています。



 アルバムタイトルにもなっている1曲目「ロンドンコーリング」は歌詞も曲調も見事に荒廃したロンドンの情景を描いています。当時のイギリスは不況で失業率も高かったんで、まさに荒廃。そんなロンドンの景色を暗い音をぽーんと響かせるベースの演出で渋く味付け、と言った感じの曲。
 5曲目「スパニッシュ・ボム」は第2次世界大戦の前哨戦とも言われる「スペイン戦争」をテーマにした曲。スペイン戦争はピカソの「ゲルニカの虐殺」の絵でも有名な戦争ですが、当時のスペイン共和政府をイギリス政府が援助しなかったことに対する、批判であると思います。「自由戦士」とか「人民を解放せよ」などの左翼キーワードが使われる政治的メッセージの強い曲です。
 8曲目「ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット」。タイトルがすごいよね。「スーパーマーケットで迷子」。どんな状態だ。
 9曲目「クランプ・ダウン」。前述4曲目「スパニッシュ・ボム」に似た導入ですが、歌詞は政治的なものに非ず。「クランプダウン」というのは「背後からのねじ上げ」という意味で、労働は背後からのねじ上げである、と歌っています。
 いわく、「労働によって、人は最初の殺人を犯す。つまり、自分を殺す」。
 この言葉で失業者を慰めていた、とも取れる内容です。そうじゃなきゃ、ただ単に無茶苦茶なのか。
 そして10曲目、静かなレゲエの曲、「ガンズ・オブ・ブリクストン」。ゆっくりまったりした曲。個人的には好きじゃないんですが、これがいいという人もおられるのもまた事実。世の中不思議です。



 18曲目「レボリューションロック」。ここからの本題。

 この曲はタイトルはもちろん「ロック革命」ですが、歌詞のなかに
>ひどいロックさ 最低
と歌う部分があります。それ以外にも、全編に渡ってどうも卑屈な部分があるような気がしてなりません。
 この「ロンドンコーリング」はアメリカのローリングストーンなる雑誌で80年代の名盤第1位(アメリカでは発売がもっと遅かった)に選ばれたものです。しかしながら、この19曲は1st、2ndのパンクという流れをまったく受け継いでおらず、むしろ音が全体に優しくなってしまいました。パンクが持つ「ポップな感じ」とはまったく異質な「ポップなもの」となってしまったようです。
 もちろん、1stや2ndのアルバムの内容を求めた人には物足りなく、むしろ裏切りにさえ感じたことでしょう。バンドとしてはただのパンクバンドから、ジャンルの枠を超えた音楽を演るロックバンドへ変化する途中であった。しかし、いわゆる「パンクファン」からの批判はクラッシュのメンバーにも予見できたはず。

 そこでこの曲です。「これはロックの革命なんだ」と言いながら、しかしどこか「こんなんじゃビールをかけられちまう」と言い訳じみたことを言う。「この曲の良さがわからないと言う奴」と、そういう声があがることを予測していたようなことを言う。
 僕にはこの曲が、そんな古いパンクファンへの言い訳に聞こえてならないのです。そして予想される批判への予防線のような気がしてならないのです。

 しかし、これは別に悪いことでもなんでもない。別に僕はこれを批判しているわけではないです(それ以上に、考えすぎだと言われればそれまでですが)。逆に考えれば、このような言い訳ができる、それはクラッシュがファンのことをしっかり考えて活動している、という事実の裏付けであると思えます。
 浮気をした男が妻に言い訳をするのは、むしろ妻を失いたくない心理の現れだと思います。同時に愛人も失いたくなかったりするわけなんですが、同じような心理が当時のクラッシュにあったのではないでしょうか。商業的な利益、打算、などはなかったと僕は信じたいですが、古いパンクとしてのクラッシュのファンにも、新しいことに挑戦しているクラッシュを見て欲しかったのだと思います。


 だから、言い訳としてジャケットにてエルヴィスのギターを壊してみた。「古いロックを壊すんだ」・・・自分たちの古いパンクもついでに壊す。クラッシュ。




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