update2004.6.27

SHACHI / EAGLE FLY  (2004.6.2)

 「痛快ゴキゲンメロパンク」を合言葉に、年間160本のライブ(2002年、2003年実績)をこなす3ピースバンド、シャチ。1994年に静岡県磐田市にて結成。単独での音源初リリースは2000年10月のミニアルバム「power of life」。そして何枚かミニアルバムをリリースし、ついに1stフルアルバムをリリース。
 魚なのに鷹かよ、なんて違和感ありまくりなアルバムタイトルですけど、他にもライオンとかウルフとか肉食系動物ちっくなCDタイトルがあるんですよね。まったくもって、魚のクセに。この魚民め。



 クロスオーバーヒット、という言葉があります。

 一つの楽曲もしくはバンドが複数の要素を持つことにより、結果として複数ジャンルの支持者に渡って売れる現象を指す言葉です。OUTKASTの「Speakerboxxx / The Love Below」がロックファンとヒップホップファンに対し売れたことはクロスオーバーヒットの例に挙げられます。
 ここ数年のロックにおいては、ジャンルのボーダーレス化や既に死語となったミクスチャーの大流行などの結果がクロスオーバーヒットの主な原因であるようです。俺たちはロックバンドでもラップパートがあるんだぜ、メンバーにシノダっていうMC抱えてるんだぜ。俺たちパンクだけどギターのリフはメタリックなんだぜ。

 むしろ聞き飽きた観のある主張の数々。それでも「クロスオーバー」は売れるロックのキーワードの一つであることは間違いないことです。



 そこで、今回取り上げるSHACHIに話を戻すのですが、彼らはHIDETA(ベース)とTAKE(ギター)の二人が曲を書いてます。

 この二人の曲はかなりタイプが違います。具体的には、HIDETAは疾走感あるいわゆるメロコア、メロディックパンク系の曲に、いかにも青春系の優しい歌詞。それに対しTAKEはスカ調含めおバカなメロディに、いかにもパンク系の流れを汲む歌詞。
 それを、曲を書いた方が歌う、というスタイルをとってます。ここでまた、二人ともずいぶんと声質が違う。HIDETAはぶっちゃけ特徴がないと言えるほど普通に歌うんですけど、TAKEはサングラスもかぶり気味なロリータ18号のマサヨを彷彿させる特徴的なダミ声。
 要するに一つのバンドでありながら、自分の書いた曲は自分で歌う、しかも曲の方向性も歌詞も声もずいぶん違う、というわけです。

 このように、一つのバンドと呼ぶにはあまりに二極化しています。実際、インターネットでは「どちらの曲が好きか」というのは大きな話題であるように感じます。たぶんライブとかでファン同士が仲良くなって話し始めたらきっと「どっちの曲が好き?」なんてのは定番の話題なんでしょう。

 一つのバンド内の二極化。これこそがSHACHIの最大の特徴であると思います。そして彼らのヒットは、前述のOUTKASTが「片方がヒップホップ、片方がロック」に徹した結果のクロスオーバーヒットと同様のものがあるんじゃないかなあと考えます。



 ライブであれ音源であれ。初めてSHACHIの曲を聴いた人が「あ、この曲いいなあ」と思ったのが数曲あったとしたら、それらはHIDETAかTAKEか、どちらか片方の曲ばかりである確率が高いんじゃないか。実は「SHACHI」のファンでありながら、本質的には片方のファン、という状態になりやすいんじゃないか。

 そこで今まで、SHACHIがミニアルバムばかりリリースしたという点に着目してみます。

 彼らはシングルをほとんど出さず(1枚)、ミニアルバムばかり(4枚)リリースしました。彼らのように「二人が自分で曲を書いて自分で歌う」「そしてバンド内の曲を二極化する」というスタイルには、シングルよりもミニアルバムの方が都合が良いのです。

 6曲くらいのミニアルバムに3+3で二人の曲を入れて、比較的安価にリリースする。リスナーは「二人が別々に歌ってる」ことにはすぐに気づいても、まさか「自分が書いている曲しか歌わない」という徹底ぶり(競作とか例外はありますけど)まではなかなか気づかない。「SHACHI」という一つのバンドのつもりで聴いていたら、実は二つの嗜好が巧妙に織り込まれていたわけで。
 だから片方さえ気に入ってもらえば「SHACHIって良いよね」となりファンとなる。次の音源も買おう、ライブに行こう、という人が増えてくる。
 こうして、SHACHIは確実にファンを増やしていったとさ。

 彼らが意識してか否かは解りませんが、この作戦は大当たりだったんじゃないでしょうか。



 そして満を持しての今回の1stフルアルバム。

 このアルバムは、今までのミニアルバム作戦とは異なる路線で攻めてきます。
 まず最初に触れておきますが、今回のアルバムの歌詞ブックレットのアートワークはインディーズの1stアルバムでありながら「カラフルな印刷」「1曲の歌詞に1ページ掛ける」というもので、これはレコード会社的に破格の対応と呼べるほどの豪華仕様ですよね。もちろん、もう充分に売れているという実績があるからこそですが、実はそれ以上にちゃんとした意味があるものでして。

 その歌詞カードなんですけど、今までより遥かにHIDETAとTAKEに違いを持たせてます。

 まず歌詞が掲載されているページの雰囲気が両者で随分と違う。さらにそれら歌詞が活字体でなく、それぞれの筆跡(と思われる)で書かれている。しかもその歌詞の終わりにそれぞれのサインまで書かれていて「これ俺の曲だよ!」と激しく主張してるものだからね、そこに「意図的な明確化」を感じないほうがもはや不自然ですよ。
 極めつけはクラッシュかよと期待させて実はまったく関係なかった「7. 白い暴動」で、HIDETAが歌うパートとTAKEが歌うパートを色分けしてます。カラオケのデュエットかよ、てくらい。もちろん、それぞれの筆跡で。

 これが、どいういことか。

 今までは多くのファンを獲得する「方法論」的な要素が、今作ではファンにこれが俺たちだ、と前面に出して示される「売りとなる個性」へとシフトしたと思います。俺たち二人が曲書いてます、自分で歌ってます、ドラムの人は叩いてるだけです、と。「SHACHI」というバンドのメンバー像が鮮やかに浮き出てくる。
 それでも、これは完成された一枚のアルバム。それらが強調された上で、「やっぱり三人で一つのバンド」であることを違和感なく楽しんで聴けて。一つのバンドなんだ、てことを改めて認識する良いきっかけなんじゃないでしょうか。
 今回のアルバムは、もはや「どっちの曲がいい」なんて楽しみ方をするのは勿体無い内容です。もう全曲、欲張って聴いて、それらをバンドの個性として聴くのが楽しい聴き方だと思います。「ああ、SUBE(ドラム)はどっちの曲であっても曲の基本をしっかり刻んでるんだなあ」なんて具合に、一味違った感想を持ってみてはいかがか。



 日本のロック、特にインディーズ/ライブバンドシーンでは、クロスオーバーヒットと呼べるヒットをあまり見かけません。フォークとパンクの要素を持ったガガガSPでさえ、フォークファンが昔を懐かしんで買っているという話も聞かないし、ちょっと分野は違いますけど上戸彩の「愛のために」もスカファンとアイドルファンのクロスオーバーをしない。
 けど、SHACHIのヒットは、HIDETAとTAKEの二人の曲のクロスオーバーヒットじゃないか、と解釈してみるとSHACHIというバンドの見方が変わって面白いんじゃないか。

 これはこれで、新しい売れ方じゃないのか。




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