update2003.11.24

STRANGLERS / NO MORE HEROES  (1977.9 リマスタ盤2002)


 4人組パンクバンド。イギリス。「音程は変わらないくせにベースの音がぼこぼこと目立つ」「キーボード型シンセサイザーによる演奏」という2つの要素によって独特の雰囲気を作り出すことに成功。そんなSTRANGLERSの3rdアルバム。そのリマスタ盤。



 同じようなものが同時にたくさん登場する、いわゆる「流行」と言う現象。それがファッションのように一部の業界が設定し、メディアなどで広められたものでない場合、それを「ムーブメント」(movement)と呼んだりする。1977年を中心に起こったロンドンでの「パンクムーブメント」の中で、他との差別化を図ったバンドはたくさんあると思います。
 他との差別化の手法として最も解りやすいものの1つに、「他で使われない楽器を使う」が挙げられると思います。STRANGLERSは「キーボード型シンセサイザー」を使うことによってそれに成功したバンドだと言うことができます。
 だけど正直に言って。こんな高価な楽器使うのってパンクなのかなあ、とか純粋に思ったり。音的にも、同時期のダムドやクラッシュとは随分と異なります(ピストルズはちょっと置いとく)。「ノリがいい」とはまた違った意味で明るく、アルバムタイトル曲である「NO MORE HEROES」など、パンクロックとは程遠い、まるでゲームミュージックのようです。もしくは、ロボットアニメの主題歌。

 ところが、当時のロンドンのパンクファンに支持され、現在まで生き残って語り継がれ、尚且つこのようなリマスタ盤が製作され売られているのも事実。実はこのあたりに、当時のロンドンのパンクファンの独特な心理があるんじゃないかな、とか思ってみたので、そのあたりを考えてみました。



 実はこのSTRANGLERSは、パンクムーブメントに際して「俺達もやってみようじゃないか!」という具合に結成されたバンドでなく、その以前から活動しているバンドでした。そのため当時からやや平均年齢の高いバンドであり、ロンドンのパンクバンドを真似てバンドを始めたバンドではありませんでした。「他のパンクバンドとの差別化のためにキーボード型シンセサイザーを使った」のでなく。「自分達はこういう楽器を使ってロックをやろうじゃないか」というバンドでした。実際、始めからパンクバンドとして活動していなかったことを証明するかのように、STRANGLERSは1980年以降はまったく音楽性を変えて活動して行きます。

 とにかく。それを当時のロンドンのパンクファンが支持した、ということだと思います。「パンクムーブメントで登場したバンド」でなく、「パンクムーブメントのとき、たまたまメジャーデビューしたバンド」であったとしても。また、音的にも当時のパンクロックという音でなかったとしても。歌詞のメッセージ性が非常に批判的、風刺的な内容でした。たしかにパンクファンの心をくすぐるような。

 要するに。当時のロンドンのパンクファンは「ここがパンクじゃないからパンクじゃない」という、否定によって否定するのでなく。「この部分はパンクぽいよね、だから好き」という、肯定によって肯定していたのではないでしょうか。
 そう考えれば。「ロンドンパンクで重要なバンドは?」と言うと必ず名前があがるバンドでありながら、でも音的には随分と雰囲気が違う、ということにも頷けます。

 否定によって否定するのでなく、肯定によって肯定する。このパンクファンの価値観、心理というのはその後のパンクロックの良い面と悪い面の双方を生み出したと思います。
 それにしても。何かを否定するために産まれた「パンク」が、肯定的発想によって広がっていくと言うのも面白い話ですよね。これによって「パンクとは存在自体が矛盾している」と言えなくもないです。これらの矛盾をすべて解決するのは「パンクとは姿勢だ」という有名な言葉、ということでしょうか。

 生き残るため変化したパンクロック。
 色々な要素を取り入れる余地が多かったパンクロック。
 死ななかったパンクロック。
 頑固なパンクス。

 それらを全部ひっくるめて、パンク系およびパンクロックは面白い。

 STRANGLERSというバンドは、こういった面白い現象を象徴していると思います。



 ただ、バンドとして2ndであるメジャーデビューアルバム「夜獣の館(邦題)」が、1977年であり、同年にこの3rdである「NO MORE HEROES」が発表されたこと。これらはバンド側が狙ってやったという可能性はあるかもしれません。「今ならパンクファンに支持されるんじゃないか」という狙い。
 これって、現在のパンク的思考(正確には、DISCHARGE以降主流となっているパンク的思考)だと、明らかに否定されてしまうものですよね。まあ、この時代のロンドンのバンドたちなら、それもありかなあ、と。




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