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命の値段 



 私の趣味は、自分の持ち物に値段をつけることです。自分の所有物には、全て値段をつけました。頂き物の値段はもちろん、自分で買った物でも購入後に改めて値段を付けるのも好きです。
 そして前の妻とは、妻に値段をつけたのが原因で別れました。

 今の妻は非常に私に理解があります。私のこの趣味を尊重してくれるのです。「お前は2000万円だ」と言ってもニッコリし、「じゃあ次は2500万円を目指すわ」と言ってくれます。「今日の料理は500円だな」と言っても「じゃあ明日は550円を味あわせてあげる!」と返してくれる、そんな素敵な女性です。私にとっては最高のパートナーです。

 もし、不幸にして私が死んだら。できるだけ多くの物を残してやりたい。

 私はそう思い、保険会社に行きました。そして、受取人を妻とした生命保険に加入しました。もし、私に万が一があったときの、妻の受け取り額は1億。
 これこそが、私が私自身に付けた「命の値段」なのです。私の命は1億の価値がある!そう考えたとき、私は非常に興奮しました。「値段をつける」という自分の趣味のなかで、最も価値ある物に最も高額を与えることができた充足感が、私をこれほどまでに興奮させるのでしょう。

 私の命の値段は1億円だ。そう考えると、気分は最高でした。私は1億円なのだ!お前は今、1億円の人間と話しているのだ!そしてお前は、1億円の人間とすれ違った!今コンビニでプレイボーイを立ち読みしている私の値段は1億円なのだ!そう、私の命の値段は1億円だ!そう、これこそが、私が私に付けた、私の値段なのだ!

 そして今日。私は強盗に襲われて命を落としました。強盗は私を刃物で殺し、財布を奪って逃げました。なんという罪深き男なのか。なんという大それた犯行なのか。この私の1億円の命を奪うとは・・・!
 薄れ行く意識の中で、警察が一刻も早く犯人を捕まえ、この1億の命を奪ったに相応しい罰を与えることを祈りました。

 やがて時は経ち。犯人が警察に捕まった。

警察官 「・・・どうして殺したんだ?」
犯人  「遊ぶ金が欲しくて・・・で、たまたま歩いてた人を刺して・・・」
警察官 「金を奪ったんだな?」
犯人  「・・・はい。」
警察官 「そうか。・・・幾ら、奪ったんだ?」
犯人  「財布にあった金全部で、2万円くらいです。」
警察官 「そうか。お前にとって、この男の命は2万円の価値だったてことか。」





 値段とは、売り手でなく買い手が決めるものらしい。




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