マインドシステム

　まったく、なんなんだよ。

　俺は今、ある場所に閉じ込められている。街にあるマインドシステムを破壊しようとしたからだ。あの機械は人々を都合よく操る装置だ。洗脳装置だ。みんな騙されているんだ。だから破壊しようとした。
　しかし、人々は俺を捕まえて、ここに閉じ込めた。マインドシステムを破壊しようとした俺のことを、頭がおかしい人間のように扱うんだ。違う、俺はおかしくなんかない。マインドシステムの恐ろしさが解っていない、皆のほうがおかしいんだ。

　事の発端は、こうだ。

　ある日マインドシステムによって、ある遠い国で大地震があったのを知ったんだ。しかし、ふと俺はそれを疑ってしまったんだ。それは本当なのか、と。そこで母親に聞いてみたんだ、この地震は本当に起きたのかと。母親は「あたりまえじゃない」と答えた。母親はそれを自分で見て、確認したわけでもないのに、だ。
　だが、何故か俺は信じられなかった。だから、自分の目で確かめようと思ったんだ。そこで母親にその国に行きたいと言ったら、「そんなお金はありません」って言いやがる。だから自分の足で歩いて行ったんだ。何日もかけて。

　そうしたら、警察が追いかけてきて俺は捕らえられ、家に強制送還された。母親は泣きながら怒って、訳を聞いてきた。なんで「家出」をしたのかとね。
　俺は家出のつもりはない、地震が起きたかどうかをこの目で確かめたかったって話したんだ。そうしたらまた母親は泣くんだ。訳解らんよ。

　いつも、マインドシステムは俺に確認できないことを伝えるんだ。そして俺の母親も含めてみんな、それを疑おうとしない。マインドシステムの言うことは絶対であり、間違いなんかないと、完全に信じて疑わない。
　マインドシステムが「今年はこれが流行る！」と言ったら、オシャレを自認する年頃の女どもは街に出かけ、われ先にそれを求める。マインドシステムが「この男は極悪人です」と言ったら、人々は会った事も無い、知らない人間なのに、その人を最低の人間と決め付けて、まるで自分が被害を受けたかのように非難するんだ。

　そう、完全に洗脳されてるんだ。こんな恐ろしいモノが、家庭に普及してるなんて！だから俺はこのテレビという電化製品を、洗脳装置という意味を込めて「マインドシステム」と呼ぶようにしたんだ。
　そしてみんなをこの洗脳から救おうと思って、俺は電気屋に行ってマインドシステムを全部壊したんだ。そうしたら警察がやってきた。その後、母親にもすぐに会った。すごい不思議な表情をしながらやっぱり泣いていたんだ。



　そしたら色々あって、この「精神科病棟」とか言うところに俺は閉じ込められたんだ。