update2004.1.15

言葉の国


 この国は、言葉がすべての国だ。巧みな言葉を使える者が偉く、的確に表現できる者が強く、斬新な表現こそ美徳とされる国だ。
 当然、世界中から「自分は言葉に自信がある」という言葉自慢、作家、作詞家、俳人が集まった。また、夢と希望に溢れる若者も集まった。

 この国で偉くなるには、言葉がすべてだ。この国の大統領は民心を掴む言葉が得意であり、軍の司令官は兵士を奮い立たす言葉が得意だ。文豪は、文字どおり豪の者であり大富豪である。言うまでもなく、この国でもっとも栄誉ある賞は流行語大賞だ。
 プロレスラーもみんな口ゲンカで戦う。リングの上では激しくも巧みな罵り合い、そしてアナウンサーも参戦しているかのようであり、「今のは言い過ぎだ!」とよく喋る個性的なレフリーが目立つ。今もっとも人気あるレスラーはマスク・ド・毒舌だ。
 テレビ番組もトーク番組が多く、ドラマもストーリー展開より「名台詞」が主役であり、国民の間でも役者より脚本家が話題になる。脚本家の写真集を発売する国など、世界がどれほど広くてもきっとこの国だけだ。
 ミュージシャンも、演奏など二の次で、誰もがヴォーカルの言葉だけ聴いた。若いファンは「テツロウの新曲いいよね!」「4行目いいよね」「そうそう、特にその行の5文字目!」と会話する。

 人々は求めた。斬新な表現を。素晴らしい言葉を。

 それでも。この国でも。

 意中の相手にもっとも気持ちを伝えられる言葉は「好きだ」の一言なんだそうだ。




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