update200310.30

MALCO / この素晴らしき生活 (2003.10.29)



 メロディパンク寄りなサウンドを展開する、東京出身3人組ロックバンド。ですます調日本語ロック。ドラムが女の子。



 僕はけっこう新しい、と言いきるほど通でもないですが、少なくとも珍しいな、と思いました。ここまで表面だけは最近よくあるノリの音で固めてるのに、ほどよく脱力した緊張感のないロックを初めて聴いたよ。奥田民男をハードコアにした感じ。いや、ハードコアとはほど遠いものだけど、物の喩えとして。ヴォーカルの声の伸ばし方とか、すごいリラックスできるじゃん。肩をだらんとさせて歌ってそう。
 その脱力っぷりにですね。僕には「青春パンク」という可笑しな言葉の流行りが終わる予感がします。ちょっと大人になって、少し落ち着いて、ゆっくり世間を見てるような。この意味で、特に4.正義のミカタは解りやすい。一見子どもっぽいタイトルなんですが、「ミカタ」が味方と見方の2つの意味を持っていて、けっこうクールな、達観した雰囲気があって。子どもっぽいタイトルだからこそ、そこに込められた「大人」ぽさが際立つ。

 さらに。「大人」というキーワードを引いてくる理由は、歌詞です。ちょっとサラリーマンとかをネタにしたものが目立ちます。「です」「ます」調の歌詞も多い。「HEY!イェーイ!」という掛け声と「そんなもんです」という敬語体の言葉が並列に使われるのなんてなかなか見ないですよ。

 そしてそんな「サラリーマンだから大人」という連想ゲームを正面から叩き割ってくれるのが、ジャケットのドラムの女の子の写真。見てください、この老け顔っぷり。このヴィジュアルの前では少々の言葉の小細工は霞んでしまう。大人びてる。横のメンバーの顔までもが「お前、こんな老け顔で写るなよ!」というツッコミフェイスに見えてしまうほどです。いやいや、ええじゃないか。



 この雰囲気を、今度は「マーケット戦略」なる角度から見てみましょう。

 メジャー音楽とインディーズロックの違いに「マーケット戦略」があるかないか、があると僕は思ってます。もちろん、「この層に売り出すぞ」というマーケット戦略があるのがメジャー音楽で、そんな戦略などなく「取り敢えずCD出しちゃえ」というのがインディーズかなあ、と。自然とインディーズのほうがそのバンドの「らしさ」が強いのはこう言った理由じゃないでしょうか。
 で。このMALCOの本作なんですが、一見、僕のような今年新卒のサラリーマンを意識しているように見えます。これは特定の層を狙ったマーケット戦略ではないか、と。そう言えるほど、特に歌詞はサラリーマン応援ソング的要素が強い。

 しかしこれはマーケット戦略ではないと断言しましょう。少なくとも、バンド的に「この層に売り出すぞ」という意気込み、もしくは狙いはない。

 理由は簡単。売れない層ですから。商売としては絶対失敗する。

 でも、商売的には成り立たない、サラリーマン層に受けそうな感じが、逆に「なんか珍しくね?一皮向けた脱力っぷり。ぎこちない敬語使ってるね」みたいな面白さがある、と僕は感じました。



 あとね。もう1つ気に入ったのがジャケットの歌詞カードの文字です。活字体でない手書き文字なんですが、いわゆる「下手上手い」文字で、すごい温かみのある文字なのが面白いですよ。この文字と音を合わせて楽しむだけでもCD買った価値がありました。

 ていうかね。どうせCD買うんだから、隅々まで楽しもう。



 前述した通り。青春パンクなるジャンルの流行を終わらせ(正確にはCD屋に『青春パンクコーナー』とかいうポップをなくさせ)、新しい流れの先駆けとかになったら面白いなあ。純粋に。




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